芝居の演出家VSオペラの演出家

先頃、あるオペラ団体に関わっている友人から、演出家のことで相談を受けました。どう言うことかと言いますと、今度彼らがやる公演の演出家が、芝居畑の人で、オペラのことがわかっておらずに、困っていると言うこと。う~ん、よくある話である。
演出家と言う職業は、本来ならジャンルを分けるべきものでもないのですが、扱う作品の種類が違うと、方法は違ってくると思います。その大きなジャンルわけとして、「芝居」と「オペラ」となるわけですね。もちろん、演出家の方も、仕事を始める流れとして、芝居から入る人、オペラから入る人、色々です。出身が違えば、自然にジャンルが違いますよね。例えば、私の場合は、声楽を学んでいた関係で、そのまま自然にオペラの世界へ入りました。芝居の現場も入ったことがありますが、やはりなじめませんでした。方法がちがうのです。逆に、役者をやっていて、スタッフになり、助手を探していたオペラの演出家にアシスタントとしてついてから、オペラの世界に入った人もいます。このジャンルが、時として入れ替わった時、色々問題が起こるのですが、それも、双方のプライドと、思い入れと言う感じがします。
芝居とオペラは、はっきりと方法が違います。何せ、片方は台詞だけ、片方は音楽付き。芝居の場合は、役者さんとともに一つの台詞を追いながら、役を創っていくという、無限大の仕事を要求されますが、オペラの場合は、まず作曲家がいて、そこに歌い手がいて、指揮者がいて、と、何人もの音楽的解釈を通り越して演出家の解釈が存在したりしますから、まず、楽譜を読むことが必須です。しかし、だからといって、オペラ演出家が、ハイレベルと言うことになりません。私は、両方の演出家とオペラで仕事をしたことがありますから、それぞれの才能のすごさに、感嘆しています。楽譜をまったく読めない演出家でも、感性がよければ、音楽の長さ、歌唱の大切さ、間奏の意味などを、ちゃんと汲み取ることが出来ます。むしろ、楽譜が読める私たちの方が、その感性を失わないように、楽譜上でのはっきりした箇所を提示できなければいけないという、プレッシャーが大変でした。例えば、宮本亜門さんなどそうです。反面、まったく楽譜を無視して、リブレットだけでオペラの場面を作ってしまおうとした演出家とも仕事をしたことがありますが、結局は、常に流れてくる音に負けて、歌い手や指揮者の言うことを飲まざるを得ないと言う事態に陥ったこともあります。しかも、その演出家がオペラ演出家だったりします。ジャンルじゃなく、才能なのだと思いますが、その相談をしてきた友人が、関わっている演出家と彼らも、まず、ここで対立しているのですね。「演出は感性だ」「オペラは音楽だ」みたいなところ。そして、双方が「知らないくせに」と言う相手のジャンル違いをどこかで攻めていることと、お互いの領域を守ろうとしてプライド合戦になる。困ったことですが、往々にしてあることです。
こういうことを解消するには、まずは、腹を割って話をするしかありません。双方に良いところはあるわけで、例えば、芝居の演出家との稽古は、何も無いところから、発想を展開させて場面を構築すると言う、キャッチボールを経験できます。しかし、歌い手たちは、ここで「自分たちは芝居は素人だ」といって、このやり方に対応できないことを方法のせいにしてしまいます。これは、良くない。段取りをもらえれば、出来るのに、と言いたいわけです。「オペラは普通、こういうやりかたはしない。」この世界、「普通」なんてことはありませんから、リベラルさが無さ過ぎです。加えて、こんな発想も出来ないのかという、狭さも印象としては出来てしまいます。それで、芝居の演出家からすれば、「オペラの人は芝居が出来ない」となるわけです。しかし、逆の見方をすれば、楽譜を読んでいけば、音楽のサイズと言うものがある程度の自由さを束縛していることはわかります。その音楽の中での、リベラルな作り方は、やはり芝居とは違います。そこは、勉強すべきなのです。難しいですね。しかし、先にも書いたように、大切なのは受け入れることです。受け入れた上で、お互いの必要性を話し合う。これさえ、シャットアウトするような演出家なら、芝居であろうと、オペラであろうと、必要悪だと言うことになると思います。
今は、チケットが売れると言うこともあって、名前のある芝居の演出家がどんどんオペラに進出しています。オペラ演出家はついぞ、名前が出ると言うことが無いですから、知名度では負けています。しかし、感性も、音楽観も、何より、作曲家とのコンタクトが群を抜いてこそ、本物のオペラ演出家なのではないかと、私は思っています。そして、オペラを演出する限り、演出家の名前が大切なのではなくて、作品が前面に出るのが一番大切なのではないかと、日々、思っているのですが・・・・・。
[PR]

by kuniko_maekawa | 2006-06-16 13:27 | 演出家のつぶやき | Comments(0)