ミラマーレ・ムジカ公演「愛の妙薬」

4日、5日と文京シビック大ホールにてミラマーレ・ムジカ公演ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」を観てきました。

ミラマーレ・ムジカはバリトン歌手の松山いくお氏の立ち上げたオペラ制作会社で、様々なオペラ公演を企画し精力的に活動をしています。

昨年8月に「魔笛」を公演した際は、演出助手で参加させていただいたのですが、今年はお客として観させていただきました。

「愛の妙薬」はポピュラーなオペラですから、内容を御存知の方も沢山いらっしゃると思います。

農園主の娘であるアディーナに、惚れているネモリーノ。しかし、使役人である彼とは身分の差もあり、いつもぐずぐずと自分の気持ちがいえないまま。
そこに、軍隊が農園に駐屯するためにやってきて、軍曹であるベルコーレがいきなりアディーナに求婚。ネモリーノが焦っていると、またまたそこにインチキ薬屋のドゥルカマーラがやってきて、誰でも惚れる「愛の妙薬」なるものを大げさに宣伝します。
しかし、どうしてもアディーナとの恋を叶えたいネモリーノは、本当はワインであるこの妙薬を買って飲みます。

結局は薬の効力など無くても、愛は成就するのですが、そこまでをドニゼッティの軽快な音楽と、綺麗なメロディー、特にデュエットの素晴らしさは筆舌に尽きますね。私も大好きな作品です。

演出は松本重孝氏。

私が唯一尊敬し、常に常に目標とし、追いかけている演出家であります。

今回もオーソドックスで、けれど十分物語りにのめり込める素晴らしい舞台が出来上がっていました。
彼の演出は、なんと言うか・・・何もしない美徳と言うか・・・。

もちろん、何もしないことは無いと思います。
彼の方法として「何も言わない」と言うやり方があるのです。
良くわかりませんよね・・・(笑)

でも、私にはこれがまねしたくても出来ないすごいことで、本当は稽古場とかにも詰めていたいんですが、影響を受けるのがわかっているので、最近は本番だけ見させていただくと言うくらい・・・。fanなだけです(^^;)

舞台美術、荒田良さん。
今回は一景だけのセットで全ての場面が演じられていました。

イタリアの片田舎によくある稲穂が前面の奥にあって、その周りを木立が囲っているのですが、その色や線が、まるで絵画から抜き出してきたような質感で描かれています。

彼女のセットは、いつも落ち着いて、はっきりした角度と線が好きなのですが、全てにおいて品格が感じられるのが特筆です。

そうだな、ミニチュアハウスの中で遊んでいる感じ。色も含めてすごく好きでした。

衣装は私もいつもお仕事させていただいている前岡直子さん。

農民の衣装が舞台を埋める割合が多くなる作品ですが、ベースの色は淡く、しかしスカーフや小物。スカートの線など、ちょっとしたところにはっきりした色が入っており、それが品があって好きなんですね。

今回は演出と相まって、オーソドックスな時代衣装。

形も好きですが、その時代の中での階級色というか、使われる色を駆使している点が特筆でした。綺麗だった。

彼女自身、すごく勉強家で努力をして衣装を創っていく人ですが、こういう仕事をみると触発されます。

衣装家や美術家は、絶対的に時代考証というものが外せません。

日本のものならまだしも、当然外国のものもありますから、勉強量と言うものは私たちの非ではないかも知れません。

なんといっても、実際に身につけていたものだったり、街中に建っていたものだったりする物ですから。

しかも、その建物に舞台上でどう人が動いていくのか、キャラクターや感情的に、どんな衣装を身に着ける人なのか・・・台本を読み解釈して最初の段階から作っていかないといけません。
素晴らしいですよね。

もちろん、演出家のコンセプトと言うものがそこにはあるだろうけれど、プランナー達の努力が無ければ立体化されないわけですから、やはり素晴らしい才能だと思います。

キャストはアディーナ:高橋薫子(4日) 竹村明子(5日)
       ネモリーノ:藤原海考(4日) 角田和弘(5日)
       ベルコーレ:党 主税(4日) 折江忠道(5日)
     ドゥルカマーラ:松山いくお(4日) 志村文彦(5日)
      ジャンネッタ: 鈴木涼子(4日) 楢松雅子(5日)

どちらの組もキャラクターがはっきり出ており、松本氏の「何も言わない」稽古によって、歌い手本来の役作り、音楽作りの力量が楽しませてくれる公演となっていました。

4日のアディーナ高橋薫子さんは大学の同級生。
藤原のプリマで、ファンも多い実力派です。

名実共に、素晴らしいアディーナでした。

彼女のハリのある、しかし美しい声は、耳を十分に満足させ、尚且つ見た目のかわいらしさ。元々可愛い人ですが、輝きはひとしおです。

何より、アディーナと言う役が、もう彼女の中で一つのレパートリーとして存在しており、自分のものを持っているという核がしっかりと感じられて、こちらが何も考えずとも、安心して楽しめるというのが素晴らしい。音楽性となると、尚更そうです。

年齢を重ねていくのは当たり前とはいえ、第一線で歌い続けていける実力は、努力無しにはありあません。

ずっと変わらず輝きを持ち続ける彼女の見えない努力に感動でした。

そういう意味では、5日組みの折江さん、角田さんは、同じ理由で十分に納得した居方だったと思います。

特に折江さんは、59歳と言う年齢で、ベルコーレの軽妙なパッセージを見事に歌いこなしておられ、まさに努力の賜物。

もちろん、もともとの才能も持ってらっしゃるのでしょうが、それだけでは長く歌い続けていられない。やはり努力がここにもあるのだと思います。

その中にあって、若い歌手たちも頑張っていました。

この公演はオーディションをしてキャストを決定します。

そのオーディションで選ばれた5日のアディーナ 竹村明子さん。

2月に学校公演のフィガロで御一緒した時も、持ち前の明るさと、根性ともいえる、勤勉な姿勢楽しいスザンナを作ってくれたのですが、今回は、もちろんそれを上回る、素晴らしいアディーナを歌ってらっしゃいました。

元々、綺麗な響きの声を持っていて、心地よい歌唱をなさる方でしたが、一本を通しての経験がまだ少なく、ペース配分が一番大変そうでしたが、そこはやはり努力の人。

もともとの良いところはそのままに、プリマとして、主役として、何より音楽をちゃんと語れる歌い手として舞台にいらっしゃいました。素晴らしい。

もちろん、経験としてはこれからだと思います。
けれど、きっとこれから良いオファーが来るのではないでしょうか、本当に先の楽しみな歌い手さんです。

オーディション組みではネモリーノを歌われた藤原海考さんが特筆でした。

良い声を持ってらっしゃるのはそうですが、ほとんど出ずっぱりのこの役を、一度も空気を止めずに居続けたというのがまず素晴らしい。

つまり、役として舞台に居続けたということです。

居方が素晴らしかったのですね。

でも、それって居るだけではだめです。

結局は彼の音楽観やリブレットの解釈が根本にあって、自分はそれを歌っているだけ・・・、そういう素材で居ると言うことです。だからこそ、特筆すべきことです。

オーディション公演の面白さはこういうところにあります。

有名な人たちは名前で聴きに行くこともありますが、若い歌い手さんたちは、出会う確立はそんなに多くありません。

だからこそ、こうやって新しく出会うことが出来るオーディション公演は意味のあることだと思います。

この方々が、これを機会に質の良いオファーに出会えると良いですね。
本当にそう願います。

今回の公演で、もう一つ特筆すべきことがありました。

合唱団の質の良さです。

こう言った自主団体の公演は、藤原や二期会とは違って、合唱団の方々も寄せ集めになりますが、「愛の妙薬」は基本的に合唱オペラ。

どこの公演を観ても、合唱団がどれだけ良いかで決まるところはあります。

今回は、これが大当たりで、合唱団が楽しかった。

それぞれの方々が、御自分の役を楽しんで、尚且つきちんと歌唱表現もなさっていて、見ていても聴いていても面白かったです。

自分で演出するときに、大人数のミザンス(位置取りとかです)を考えるのは、やはり苦手なのですが、それでも、合唱オペラをやってみたいと思うのは、こういう公演を観た時。

絵として居られる彼らに脱帽でした。

やはり舞台は良いですね。

映画やVDも感じるところは沢山ありますが、生きている舞台が一番良い。

特にこういう成長過程の団体の公演は意味があると思います。

これからのミラマーレ・ムジカにも期待しつつ・・・。
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by kuniko_maekawa | 2008-09-06 13:33 | 観劇日誌 | Comments(0)