稽古場での居方(いかた)

職業柄、色んな団体とお仕事をし、色んな歌い手さんとお仕事をしますが、最近気付いてきたことに、「居方のちがい」と言うものがあります。これは、稽古場でまず目に付くことですが、一つの舞台のお稽古をしていますと、それに乗っている歌い手さんも様々で、年齢の差もそうですが、経験の差も如実に出てきます。それから、元々器用な人、不器用な人。これは男性女性関係無く、その人そのものから出てくるものです。こう言った人達が集まって稽古に立っていますと、当然、目に見えて差が現れてきます。よく言う「動ける人、動けない人」と言う、分類。しかし、それは、経験値の差ではなく、本人達の稽古場における「居方」の差だと言うことに、最近気付きました。
これは、歌い手さんご自身が、どういう志を持って、稽古場に立っているかということに大いに起因します。もちろん、皆さん経験を詰まれるために、この舞台に乗ってきたのでしょうが、その中でも、自然に目立って動きが良いとか、オーラみたいなものを感じる人達は、最初から「舞台で歌う」と言うことを意識してます。ということは、お客の目を意識していると言うことです。つまり、たとえ稽古場であっても、演技空間に入ってくると、その方ご自身に「歌い手」と言うフィルターがちゃんとかかるのです。稽古場空間が特別なものになっているのですね。ですから、そう言う方々は、自然に立ち方が綺麗だし、周りの空気や、リアクションを感じているし、もちろん指揮、演出、そして自分の感性、そういったもので役を作るという作業をちゃんとやっています。稽古場があくまで舞台に乗る前に色々試せる場所だとわかっているのですね。そう言う居方が出来る人と言うのは、もちろん勉強してきますし、稽古をやっている間に、どんどん変わっていきます。本番に一番良い状態で、完璧に役を歌いきれるように調整していき、役になっていくからです。何より大きく違うのは、こう言う人達が、根底で「歌い手である」プライドをちゃんと持っているということ。これは本当に大切なことです。ですから稽古場でお客の目や耳を想定した、舞台のシュミレーションがちゃんとできるのですね。
反対に、一向に役を作れない、いつまで経っても、歌い手さんの本名が見えるような立ち方をする人も居ます。若い人に多いですが、まず、こう言った居方をする代表選手は「勉強のため」にこの舞台に参加している人。これは、とても正当な理由に聞こえますが、はっきりいって隠れ蓑にもなりえる言葉です。だって、「まだ勉強中で、未熟ですが、経験は積まなきゃいけないので、やらせてもらっています。ですから、当然上手く出来るはずがありません」ってことですもんね。もちろん、どなたも勉強だと思って乗っているでしょう。しかし、それは経験値の問題であって、自分が勉強中だと看板を立てて、お客さんにお金を払ってもらうためにはいきません。ですが、そう言う人達は、先の人達とはちがって「歌い手である」プライドはまったくありません。もしかして持っているかもしれませんが、それは、「歌い手」としてのではなく「声」としてのプライドだと、私は思っています。「いい声してるんだから」と言うやつですね。
こう言う居方の人達は、ひとえに頑固です。「声」のプライドは持っているくせに、それを崩すのを嫌って、同じ立ち方、同じ歌い方、同じリアクションの仕方しか出来ません。明らかにお客を無視しているか、最初からシュミレーション出来ないかのどちらかです。ですから、正直、お金を払って、お勉強会を見てもらうという感じが否めません。
さて、そうは言っても稽古場は同じですから、こう言った人達で一本の作品を作っていくと、本当にバランスが悪くて大変です。これは、残念ながら、地方オペラに多い形ではあります。この団体しか「場」を持っていないという人も多いからですね。こうなると、稽古をするほうとしては、「居方の良い人達」をメインにして、舞台を作っていくのが常套手段です。その影響で、「お勉強」していた人達が、変わることもありますし、第一、「歌い手」である人達と話をした方が早いですもん。
こう言った状況があるのは、日本のオペラ界、声楽業界をよく表しているように思います。私も行きましたが、音楽大学というところは、まずその特殊能力を伸ばすだけで、その先を見通して音楽家を育てていません。少なくとも声楽科はそうだと感じます。どれくらいの大学が、将来卒業生をこう言うオペラ歌手にしたいとか言うヴィジョンをもって学生を入学させているでしょうか?しかし、その4年間や6年間で、「声」のプライドだけは大いに育てられるわけです。ところが、大学や研究生機関を出てしまったら、何のフォローも無く、勝手に勉強しなさいと、ほっぽり出してしまいます。さらに受け手であるオペラ団体でも、歌える人は数えるほど。ほとんどが「場」をもてずに、歌とは別の仕事や、学校の先生などを余儀なくされる。やっぱりこれで、「歌い手」でいろ、というのは難しいのかもしれません。しかし、それでも舞台に乗りたいと、オーディションを受けたり、依頼を引き受けたりするのなら、やはりお客にとってはエンターテナーです。決して「勉強」だけで稽古場にいてはいけません。それが、これからのオペラ歌手には、本当に必要なことのように思います。
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by kuniko_maekawa | 2005-09-15 00:40 | トレーナーのつぶやき | Comments(0)