ライモンディ賛歌

私はバリトンのルッジェーロ・ライモンディが大好きです。最近はめっきり年を取り、それなりにかっこいいおじいさんになりつつありますし、日本にもあまり来なくなりましたから、生で見る機会もなくなりました。残念ですね。
私は彼とは二回ほど一緒に仕事をしたことがあります。一回目は藤原歌劇団の「ファウスト」。二回目は新国立劇場の「ドン・キショット」。どちらも演出助手でいましたから、間近で彼と接する機会がありました。いや~、とにかくかっこいい人です。超ハンサムと言う面立ちでもないのですが、なんと言うのですかね、とにかく彼には「品格」があるのです。背が高く、常に優雅にゆっくりと歩き、周りにあまり左右されない感じがあります。しかし、全然気にしていないのではなく、一緒に仕事をする人間達、すべてに気を配っています。スターなんですよね。決しても声を荒げずに、演出家の言うことや、スタッフの言うことを黙って聞いて、納得すれば、何も言わずに完璧にこなしますし、納得いかなければ、正論をきちんとはなすことが出来る。頭の非常に良い人です。ですから、世界中の演出家に愛されていますよね。「ドン・キショット」を演出したファッジョーニも、恐ろしくわがままで才能のある人ですが、ライモンディが来たとたん、わがままが無くなり、彼と役を作ることに没頭してました。彼としかこの作品を創りたくないと言う話も聞きました。さもありなんです。前の記事で書いた「トスカ」でも、やはり彼の中で創られたスカルピアがかなり堪能できました。正直言って、声は好きではありません。元々持っている声がそんなに良い感じがしないのです。私自身も、艶のある声が好きですから、彼の声はちょっと響きがこもる感じがする。しかし、それを補う語感と芝居の感覚の良さがあります。それが群を抜いていると思うのです。しかも、スタンドプレイじゃない。そこにはちゃんと演出家や指揮者が介在している。つまり、自分の作ったものをベースに、演出家のコンセプトや指揮者のコンセプトをちゃんと加味して「役」を演じることが出来る。特筆です。自分勝手に役を作ってそれをただ歌う人は一杯いますが、彼にはそのプロダクションのコンセプトがある。それをこなすのが自分の役目だとわかっているみたいです。まさに職人ですね。ここも大好きなところです。「トスカ」の有名なアリアで、彼が見せた表情などまさにそう。カヴァラドッシの浮気を疑ったトスカが、本当はアンジェロッティをかくまっている別荘に乗り込んでいくのを部下に付けさせます。彼女が走れば走るほど、自分の手の中に入ってくると歌うのですが、このとき、同時に教会内でミサが始まります。そのお祈りの声を聴きながら、彼と彼の周りがぐるぐると回り始め、その中でずっとコーラスの聖句が聴こえてきて、スカルピアがめまいを覚えているのがわかります。それが止まったとき、「トスカ、お前は神を忘れさせる」と彼は歌い上げるのですが、ここには二つのスカルピアが介在していました。一つは映画監督の望む好色で残忍なスカルピア。しかし、ただカメラをぐるぐる回してもスカルピアの人となりは表せませんし、絵としてはそうそう面白いものでもありません。そこにライモンディの作ったスカルピアがあるから、この初老の警視総監が残忍さや情欲の内に、まるで初恋に胸を焦がすような胸の震えを感じさせます。本当に「最後の夢」と言う感じなのです。ぞくっとしました。
そうは言っても、本当は監督がこうしろと言ったかもしれません。しかし、彼と一緒に仕事をしたときに、同じことを感じましたから、多分すべてを要素として取り込んで彼が表現しているのだと思います。なぜなら、この映画はレコーディング風景とスライドするように作ってあって、その役が登場するとき、レコーディングをしている歌い手の姿が映るのです。スカルピアが登場するときも、まさに立ち上がって歌おうとするライモンディの表情が映りました。ぞくっとしましたよ。そこにスカルピアに変わる瞬間が映っていましたから。やはり、こういう風にして自分を作品の中に存在させることが出来るのが、彼の頭のよさだと思っています。ドン・ジョヴァンニやフィガロの伯爵なども気品があって、スノッブでちょっとエッチで本当に美しいです~(惚)
ご本人も、気さくでエレガントで素敵な人でした。なんど、その眼差しと優しい言葉に殺されたか・・・(笑)。もう一度、是非お仕事したい夢の歌い手さんです。
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Commented by keyaki at 2006-04-30 15:03 x
はじめまして。
久々にネットサーフィンをしていて、たどりつきました。
ライモンディと一緒にお仕事なさった方の記事が読めるなんて感激です。
私もライモンディが好きといいますか、オペラ歌手にはめずらしいタイプなので、魅力を感じています。
ライモンディのネットで追っかけブログを開設していますので、お時間のあるときに覗いてやって下さい。

>もう一度、是非お仕事したい夢の歌い手さんです
9月にはフィレンツ5月音楽祭の引越し公演で来日予定になっていますので、ぜひ、一緒にお仕事していただきたいです。
でも、64才ですし、ダブルキャストにしてますから、来ない可能性もあるかな、、ということで、まだチケット買ってませんが。

新国立劇場でドン・キショットが見られたのは、一生の思いでです。
Commented by kuniko_maekawa at 2006-05-01 00:37
いらっしゃいませ~!くいつきましたね(笑)!そうなのです!私はドン・キショットに演出助手で参加してました。ほんっとに素敵な人で、稽古場でお会いしたとき、その前にご一緒した藤原の「ファウスト」のことを覚え照らして、「はじめまして・・・いや、ちょっと待って、一緒に仕事したことあるよね」なんて、言っていただきました。(もちろんイタリア語で)感動して「覚えてらっしゃるんですか~???」(もちろんイタリア語で)と言いましたらば、「もちろん!」こういうところに殺されました(笑)。残念ながら、もうご一緒する機会もないでしょうが、こんな風に、真にエレガントな歌い手さんも少なくなってきました。ブログ、覗いてみますね。また遊びに来てください!
Commented by keyaki at 2006-05-01 16:24 x
もちろん、がぶっとくいつきました(笑)
ライモンディに注目してオペラを見ていると、演出家とか演出のことに自然に目が行くようになりますので、管理人さんのお仕事にはとても関心があります。ブログの最初から、ゆっくり読ませていただきます。

私は、完璧素人で、見たり聴いたりして楽しんでいるだけなのですが、ライモンディって、ほんと面白い経歴ですし、オペラ歌手としては、異色といえるのかもしれません。ですから、日本では彼のような才能を理解できない音楽ジャーナリスト?が多くて、正当に評価されていないか、無視されているように感じます。(ブログでもとりあげていますが)
私に言わせれば、注目度の低いバス歌手を注目させるようにしたのもライモンディの功績ではないかと思っているのですが。
また、オペラ歌手の中には、再演好きの歌手もいるようですが、ライモンディはとにかく初演が多いし多分好きなんだとおもいます。ということは、演出家、指揮者、仲間の歌手とともに舞台を作り上げていくことに一番関心があるのでしょうね。

字数制限にひっかかりました。二つに分けて投稿させてください。
Commented by keyaki at 2006-05-01 16:27 x
続き。。。
(きくところによると再演の場合は、リハーサルの期間も短いし、ぶっつけ本番なんてのもあるときいていますので)

>背が高く、常に優雅にゆっくりと歩き
これって、舞台でもそうなんですよね。
ライモンディの本を書いたドイツの評論家が、下記のように書いています。

「ここでも、ライモンディの特技に気づかされる。彼のきわめてゆっくりとした動きが、まるで音楽という物差しに従って、生じているかのように見えるのだ。これは逆に見ることもできる。すなわち、音楽が彼から流れ出ているようにも見える。」

長いコメントでごめんなさい。止まらなくなっちゃいました。躁状態かしら(笑)

もう一言、
ドン・キショッは、1982年以来、いろいろな劇場で上演していますが、その都度進化、変化しているようです。日本の新国の公演は、非常に完成度が高いものだと思います。
Commented by うさぎ屋店主 at 2006-05-01 20:34 x
うわ~すごい!ほんっとにファンなのですね~。私がファンだなんていうのもおこがましいって感じです。ブログもHPも拝見しましたよ。それにしても、すごい資料!とにかく、愛情の度合いを感じました!それに、興味深い文献も一杯でしたね。確かにライモンディの経歴の多彩さには私も摩訶不思議的な感じを受けますが、海外ではパン屋だったのにオペラ歌手になったとか、建築家、美術関係から結局舞台に立ったとか、ざらですよね。やはり、本質は声と言うこだわりと、その後の勉学の仕方によっていくらでも人間は専門家になれるということをわかっていると言う、感じがします。日本はどうしても「極める」と言うことに美意識がありますもんね。彼の舞台の創り方は、なんというのでしょうか・・・役割を良くわかっている職人のようです。頭ももちろんいいけれど、そのオペラの役としての居方が良くわかっている。申し子のような人ですね。もっと、どんどん書いてください。新しいことがわかるのもHPの醍醐味です!
Commented by keyaki at 2006-05-03 14:25 x
拙ブログにコメントありがとうございます。
オペラ歌手、特に男性歌手の場合は、果たしてこの声で稼げるかというのがありますから、他の職業から転向組、大学は音楽以外、音楽でも他の楽器からの転向組が多いのではないかと思います。
ライモンディの場合は、かなり純粋培養っぽいですね。まあ、3才からオペラを口ずさみ、10才からお父さんとボローニャ歌劇場通い、16才からミラノ、ローマ、ボローニャの音楽学校に行っているのに、どこも卒業していないというのも面白い。ローマのサンタチェチリア音楽院は、音楽関係の成績は一番なのにピアノと体育の単位不足、無駄な授業には絶対出席しないという主義?を貫いて自主退学ですものね。お母さんはがっかりだったようです。万一、オペラ歌手でダメでも卒業していれば教師になれますものね。
今、オペラは演出の時代といわれているようですが、その演出に納得していないのに契約で仕方なく出演する歌手も多いようでお気の毒というかんじです。
Commented by keyaki at 2006-05-03 14:28 x
また,続きです。
ライモンディは、いい演出家に恵まれ幸せですが、それでもオペラは、演出家だけでなく、すばらしい舞台ができ上がるかどうかは、指揮者、共演者もかかわってきますから、なかなか難しいですね。
オペラ歌手の中には、出演していながら、演出に納得できないと公言する歌手がいますが、どんなもんなんでしょうね。ライモンディには考えられないことですね。
ブログにリハーサルのビデオクリップをアップしましたが、その中で、舞台の袖で、ソプラノさんに、その役の今の心境「エレナはガストンに絶対会えると強く信じているのよ、準備できた?さあ行って」と女性のスタッフが舞台に送り出していましたが、演出助手さんかしら?と思いました。
私のビデオクリップはQuickTimeをダウンロードすれば、見られますので、お楽しみ下さい。
Commented by うさぎ屋 at 2006-05-04 00:46 x
わ~、是非、観ます。っていうか、どこからそれを入手するのですか?ライモンディの経歴も、そこまで詳しくは知りませんでした。すごいですね~。ところでkeyakiさんはブログで私のところにいらしているのですよね。HPありますので、是非、来てください。書き込みも掲示板ならしっかりかけますよ!でも、楽しいブログですよ。稚拙なんて、全然ないです。ねっからオペラとライモンディがすきなのですよね。その賭け値のなさが、すごく清々しいです!また遊びに行きますよ~。まず、そのビデオみなきゃ!演出家と歌い手の関係はやはり難しい場合が多いのですが、それでも、歌い手の方に役を解釈できる才能があれば、それは軽減できます。それに、レパートリーにすると言う大切な作業をやっているかいないかも大いにものを言いますよね。ライモンディくらいの歌い手だと、そこがしっかりしているので、どんな演出家が来ても、多分大丈夫なのです。いずれにしても、職業人なのだと、深く感動すること然り。
Commented by keyaki at 2006-05-05 11:34 x
>HPありますので、是非、来てください。
どこ、どこ?と迷いましたが、わかりました。どこでもクリックですね。
ネットサーフィンで訪問すると、けっこう裏口からのことが多いようで、ずーっと以前も、入って行って、コメントしたりしていて、ある日、ずーーと上をスクロールしたら、なんとゲイな方々の掲示板で吃驚、「ノンケのみなさんも大歓迎よ」と言われて、そのままいついてます。
QuickTimeは、Windows2000/XP でしたら、こちらからになります。
http://www.apple.com/jp/quicktime/download/win.html
それ以外ですと、一部見られないのもありますが、下記からダウンロードしてください。
http://www.apple.com/support/downloads/quicktime652forwindows.html
Commented by うさぎ屋店主 at 2006-05-05 12:46 x
お知らせありがとうございます。HPわかってよかったです。是非、書き込みしてくださいね。ネットサーフは時間がないと中々出来ないのですが、私も好きで、やり始めると止まりません。あんまり画面を見すぎて、眼精疲労勃発(一度病院のお世話になっているのです)。昨日も夜になって頭痛に泣いちゃいました。keyakiさんもお気をつけて~!
by kuniko_maekawa | 2005-11-28 11:54 | 歌手 | Comments(10)

オペラ・レッスンのこと、演出のこと、舞台や絵画や色んなことを書きまくっています。


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