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言の葉のいずるよりも前にきみが好きだった

駄目だしと言うもの

先日、ある歌い手さんから演出家との関係について相談を受けました。

その歌い手さんは出演していた公演で、稽古中に演出家からまったく「駄目だし」を受けなかったのだそうです。

「駄目出し」とは、立ち位置や内容のことなど、演出家のコンセプトと違った場合、そこをチェックして伝えると言う作業です。

その歌い手さんの役は脇ではありましたが、キャラクター的なことも何も言われず、どうやって役を作っていったらいいのか、わからなかったのだそうです。

「最後まで演出家との共通意識が持てなかった。私の力不足で演出家のイメージを引き出せなかったのでしょうか」

う~ん、言葉に詰まりますが、こういった演出家の影響は、私も考えさせられるところであります。

ただ、この演出家は私も良く知っている方ですが、決して仕事をしないというのではなく、役割を知っているからこそのことだと理解しています。

つまり、オペラ演出家は作曲家の演出助手だと言うこと。

また、それぞれの分野のスペシャリストとして公演に参加しているのだから、歌い手もその一人として、自身の技で作品に関わっていくのが仕事。

その仕事を全うしていれば、歌い手こそが内容を作っていく人であり、演出家の仕事は作曲家の指示する交通整理だけなんだということ。

そこを受け手がどう捉えるかによって、勘違いは起こりえることだと想像します。

しかし、通常の稽古場での演出家の仕事は、内容から形、全てにおいて責任を取ることだと思われています。

ですから、当然、演出家の意見が第一になり、下手をしたら動き方とか、手の上げ下げまで「決めてください」と言われる。

これは私からしてみれば「演出家の権限」なんてものではなく、単なる責任転嫁です。

楽譜のト書きや音楽を解釈できないと言う事の責任転嫁。

同じ台本を読んでいて、各分野が解釈をし、それを出し合うのが稽古場であるべきです。

もしかして、迷った時でさえ、頼るべきは演出家ではなく楽譜かもしれません。

さて、先の歌い手さんに話を戻しますと、この方はすごく真面目な方で、モチベーションも良く、どの現場に行っても、評判の良い方です。

もちろん、歌い手としての可能性も十分。
本人もそのつもりで、色々とオーディションも受けて頑張っています。

若いので経験はこれからでしょうが、自分でも現場を踏んで来始めた自信もあると思います。

恐らく、今回も十分に準備をして稽古場に立ったと思います。

ところが演出家は自分に何も言わなかった。

そこで、自分は何が出来ていないのか、いいのか悪いのか、わからなくなってきた。

そして迷ったまま舞台に乗ってしまいました。

しょうがないことだろうと思います。

どうしてこうなったのか。

実は、この歌い手さんは自分の評価を演出家に託していたのですね。

何をするにしても、演出家に答えを求めていた。

つまり、本来は作品と向き合わねばいけなかった時間を、演出家の意向を探るために使ってしまった。

ところが演出家のほうは歌い手さんの作ってきた役に対して、その仕事を認めていたので何も言わなかった。

このすれ違いが結局は歌い手さんを集中させなかったってことです。

多分、一言でも演出家が「それで良いよ」と言っていたらば違ったでしょうが、この演出家は良し悪しは自分の選択ではないと思える人で、楽譜の方向性が違ってなければ良いんですね。

難しいですね。

私は稽古場や現場で駄目だしが多い演出家は、結局は作曲家から逃げているのじゃないかと思っています。
もちろん、自分自身も含めて、そうです。

出来れば、すべてを作品と歌い手に委ねて、自分は外側を作ることに集中したいと思っています。

しかし、それをするには「信頼」が必要。

実は、これは先の演出家に聞いたことです。

どうやったら、何も言わないって言う稽古場が作れるのか。

「それって、信頼することだよね」

いとも簡単にこの演出家は言ってのけましたよ(^^;)

指揮者を信頼し、歌い手を信頼し、楽譜にすべてを託す。

どれだけ経験と知識を増やせばこんな言葉が言えるようになるのですかね~。

相談してくださった歌い手さんに感謝しています。

私自身も答えながら考えました。

この方の今回の経験が、長い歌い手人生の中の一つのプロセスとして残っていきますように。

尊敬する人たちがいてくれるので、歩ける道でもあります。

私の後に付いてきてくれている人がもし居るとしたら、同じように残して行きたいと最近思います。

叶う事を期待して。
by kuniko_maekawa | 2008-09-14 16:44 | 演出家のつぶやき | Comments(0)

オペラ・レッスンのこと、演出のこと、舞台や絵画や色んなことを書きまくっています。
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