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言の葉のいずるよりも前にきみが好きだった

2011年 08月 15日 ( 1 )

残せなかったこと

詩を一つ。

死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった

2.
死んだ女の残したものは
しおれた花とひとりの子ども
他には何も残さなかった
着もの一枚残さなかった

3.
死んだ子どもの残したものは
ねじれた脚と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった

4.
死んだ兵士の残したものは
こわれた銃とゆがんだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった

5.
死んだかれらの残したものは
生きてるわたし生きてるあなた
他には誰も残っていない
他には誰も残っていない

6.
死んだ歴史の残したものは
輝く今日とまた来るあした
他には何も残っていない
他には何も残っていない

これは谷川俊太郎さんの詩で「死んだ男の残したものは」という作品です。

今は亡き武満徹さんが曲をつけて、多くの人に歌われています。

私はこれを昨年のあるコンサートで始めて聴きました。

谷川さんの詩は大好きで、私がやる構成舞台でも何編も読んで、オペラとあわせて創ってみたり、自分でも詩集を読んだりしては言葉を楽しみます。

この曲を初めて聴いた時、あることに気付きました。

それは4節目のことです。

「死んだ兵士の残したものは
こわれた銃とゆがんだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった」

お気づきですか?

この箇所だけ、「他には何も”残せ”なかった」となっているのです。

他はすべて「”残さ”なかった」なのに、死んだ兵士だけ「”残せ”無かった」。

私はこの歌詞を聴いた時、最初に「あ~、うまいな~」と単純に気付いて、さすが谷川俊太郎だ!などと安易に感動しそうになっていましたが、その次の瞬間、胸がぎゅーっと締めつけられました。

頭で考えるより先に、感性が動いた。

「男」も「女」も「子供」も、みんな死んでいるのは同じなのに、彼らは「何も残さなかった」という自主的な言葉で書いている。

死んだ兵士だけ「残せなかった」という、本来の意思では無い言葉で終わっています。

これに、深い悲しみを感じました。

この兵士が残そうと思っていたものはなんだったのか。

それとも残そうと思ってもいなかったのか。

彼が残そうと思っているかどうかは関係なく、「壊れた銃とゆがんだ地球」は残され、他には何も残せなかった。

残す間もなく死んでしまった。

こんな戦いをしても「平和一つも残せなかった」。

今も世界中で戦争は続いています。

私たちは戦争を知らない世代だと言われて、その時の思想も、事実も、恐怖も、希望も知らずに育っています。

兵士が残せなかった平和を維持するのも時々忘れて、現代人は自分のために生きている。

そうやって生きても、死んでしまえば何も「残さなかった」人生なのかもしれません。

平和とは何かと問われたことがあります。

答えに窮しました。

ただ一つ言えることは、「変わらない日常を生きることが出来ること」

心から祈ります。
by kuniko_maekawa | 2011-08-15 17:12 | Comments(0)

オペラ・レッスンのこと、演出のこと、舞台や絵画や色んなことを書きまくっています。